家路につこうと車に乗り込み、いつものようにイグニッションキーを回した瞬間、あるいは、ドアを開けようと鍵穴にキーを差し込んだ瞬間、そこにあるのは、びくとも動かない、絶望的な手応えだけ。車の鍵が回らないというトラブルは、私たちを、その場から一歩も動けなくさせてしまう、極めて深刻な事態です。その原因は、住宅の鍵とは異なる、自動車特有の、いくつかの要因が複雑に絡み合っている可能性があります。まず、エンジンキーが回らない場合に、最も多く、そして最も簡単に解決できる原因が、「ハンドルロック」です。これは、盗難防止のために、エンジンを切った後にハンドルを動かすと、ステアリングが物理的にロックされる機能です。このハンドルロックがかかっている状態では、安全のため、イグニッションキーも回らなくなります。解除方法は、ハンドルを左右どちらかに、少し力を込めてぐりぐりと動かしながら、同時に、キーを回すだけ。この簡単な操作で、ロックが外れ、キーが回るようになるはずです。次に、オートマチック車で確認すべきなのが、「シフトレバーの位置」です。安全装置が働き、シフトレバーが「P(パーキング)」または「N(ニュートラル)」の位置にないと、キーが回らない、あるいはエンジンがかからない仕組みになっています。完全に「P」に入っているかを、もう一度確認してみてください。これらの基本的な確認をしても回らない場合、次に疑われるのが、スマートキー搭載車などにおける「バッテリー上がり」です。車両のバッテリーが上がってしまうと、イグニッションシステムや、イモビライザーといった、電子制御システムに電力が供給されず、キーを認証できなくなり、結果として回らなくなる車種があります。また、キー側の電池が消耗している場合も、同様の症状が出ることがあります。そして、最後に考えられるのが、キーシリンダー本体の、物理的な「摩耗」や「故障」です。これらの、電気的、あるいは機械的な故障が原因である場合、もはや素人が自力で解決するのは困難です。無理に力を加えれば、キーが折れたり、ステアリングシステムにダメージを与えたりする危険性があります。その場合は、潔く、JAFや、自動車保険のロードサービス、あるいは、自動車の鍵を専門とする鍵屋に、助けを求めるのが、最も賢明な判断と言えるでしょう。