それは、地方への出張から帰る途中のサービスエリアでの出来事でした。長時間の運転で疲れていた私は、コーヒーを買って一息つき、さあ出発しようと車に戻りました。いつものようにドアノブに手を触れるも、カチャリという解錠音が聞こえません。おかしいな、と思い何度か試しましたが、愛車は沈黙を保ったままです。ポケットからスマートキーを取り出し、解錠ボタンを連打しても、赤いランプが虚しく点滅するだけ。その瞬間、私の頭の中は真っ白になりました。時刻はすでに夜の九時を過ぎ、周囲には人気もまばら。自宅まではまだ百キロ以上あります。スマートフォンのバッテリーも残りわずかで、私は言いようのない孤独感と焦燥感に襲われました。パニックになりかけた頭で必死に思い出したのが、車の納車時にディーラーの営業マンが話していた「メカニカルキー」の存在です。震える手でスマートキーを分解し、中から小さな金属の鍵を取り出しました。ドアハンドルの目立たない部分にあった鍵穴にそれを差し込み、力を込めて回すと、ようやくガチャンという音と共にドアが開きました。車内に入れただけでも心底ホッとしましたが、問題はエンジンがかかるかどうかです。スタートボタンを押しても、やはり反応はありません。もう一度、営業マンの言葉を思い出します。「電池が切れたら、キーをボタンに直接くっつけて押してみてください」。藁にもすがる思いでその通りにすると、一瞬の間を置いて、ブルンという音と共にエンジンが息を吹き返したのです。あの瞬間の安堵感は、一生忘れることができないでしょう。結局、原因は単なる電池切れでしたが、この一件は私に大きな教訓を与えてくれました。どんなに便利なシステムでも、いつかは故障する可能性があること。そして、その時のためにアナログなバックアップ機能の存在と使い方を知っておくことが、いかに重要かということを。この日以来、私は車の取扱説明書を必ずダッシュボードに入れるようにしています。
私のキーフリーが突然故障したあの日の出来事